東京, 2025年12月1日 - (JCN Newswire) - 当社は、このたび、サプライチェーン内の異なる企業に属する、異なるベンダーにより開発された複数のAIエージェントが連携し、状況に応じてサプライチェーン全体を最適化するマルチAIエージェント連携技術を開発しました。当社は本技術を用いて、国立大学法人東京科学大学(注1)(以下、東京科学大学)および、ロート製薬株式会社(注2)(以下、ロート製薬)様とともに、ロート製薬様のサプライチェーンを複数企業のAIエージェント連携により最適化する実証実験を2026年1月から開始します。
マルチAIエージェント連携技術は、各企業が共有できる情報が限られた中で、各AIエージェントへの指示・交渉を行い全体として最適な状態に保つ、不完全情報下でのAIエージェント全体最適制御と、各AIエージェント間の情報共有をセキュアに行うことを可能にするセキュアエージェントゲートウェイからなります。本技術により、通常時のサプライチェーンの運用を効率的かつ最適に行うだけでなく、急な需要の変化や事故・災害などの緊急時に迅速な回復を可能にします。
当社は今後、異なる企業をまたがるセキュアなデータ&AI連携を行うAIスペースを世界に先駆けて実現するために、一般社団法人産業競争力懇談会(COCN)(注3)の推進テーマ活動(注4)に参画・貢献し、AIエージェントによる日本の産業界の競争力強化を目指します。
背景
近年、サプライチェーンが大規模化し、関係する企業や取引の内容が複雑になるにつれて、サプライチェーン全体を人手によって最適に運用することが難しくなっています。こうした中、生成AIやAIエージェントの発展により、これまで人が行っていた企業間の調整作業などをAIが代行し、より迅速かつ効率的にサプライチェーン全体を運用できるようになることが期待されています。これにより、急な需要の変化や災害などの環境変化にも柔軟かつ迅速に対応できると考えられています。
一方で、AIの活用には大量のデータが欠かせず、企業間で機微な情報を共有しなければならないという懸念もありました。また、サプライチェーンは複数の企業によって構成されており、その運用に関わる機能は多くの場合、各企業に個別に構築されています。今後、これらの機能をAIエージェントが代行するようになった場合でも、全体で一つの統合的な仕組みになるのではなく、各企業に独自のAIエージェントが構築されることが想定されます。この場合、各企業の機微なデータを一か所に集約することができないため、従来のAIエージェント技術では、サプライチェーンに関わる全てのAIエージェントが協調し、サプライチェーン全体の最適化を図ることは困難でした。
図1:マルチAIエージェントの連携の課題と目指す姿
マルチAIエージェント連携技術
マルチAIエージェント連携技術は、以下の2つの要素技術で構成され、情報セキュリティの懸念により企業間AIエージェントが連携できない課題を解決します。
1. 不完全情報下でのAIエージェント全体最適制御
本技術によって、各企業の機微なデータを共有することなく、最低限のデータ共有のみで各企業のAIエージェントが適切に連動し、サプライチェーンの最適化と変化への迅速な対応を可能にする仕組みを実現します。従来、各企業のAIエージェントを連動させるためには、各企業における作業を決定するために必要な情報を全て一括に共有する必要があり、共有される情報に機密情報を多く含むことが各企業にとって課題でした。そこで当社は、AIエージェント間の提案とその回答のやり取りから、提案側AIエージェントが複数の相手側AIエージェントにとって好ましいコスト・スケジュール・調達ルートなどの条件を推定し、それをもとに全体として提案側AIエージェントがサプライチェーン全体の最適な状態を見つけ出す技術を開発しました。
2. セキュアエージェントゲートウェイ
セキュアエージェントゲートウェイは、分散型AI学習技術とAIエージェント間ガードレール技術などで構成されています。企業に属し、異なるベンダーにより開発されたAIエージェントを、企業の機密情報およびプライバシー情報を保護しながらシームレスかつセキュアにつなぎ、企業を跨ぐ安心・安全なAIエージェント連携の構築と運用を実現します。構築および運用の各過程において、以下の技術を提供します。
AIエージェント連携の構築時において、各企業は自社業務に対応したAIエージェントを準備します。このとき、サプライチェーン全体のの生産計画など特性を相互に把握してAIエージェントを調整することにより、各AIエージェントはサプライチェーン全体最適に向けた動作が可能となります。従来、この調整には、各企業の持つ機密情報やプライバシーを含むデータ・メッセージを事前に共有する必要がありました。これに対し、今回開発した分散型AI学習技術では、知識蒸留(注5)を活用して複数の他のAIエージェントと知識を共有することにより機密情報やプライバシー情報を共有せずにサプライチェーンの特性を学ぶことが可能です。さらに本技術は、知識共有のための相手AIエージェントを、過去の連携における性能向上への寄与度や信頼性に基づき動的にマッチングする機能を備えており、これにより大幅な性能向上を実現します。
また、運用時のAIエージェント間の頻繁なやり取りによって機密情報・プライバシー情報が推測されてしまったり、悪意あるAIエージェントが含まれた際に不正な質問によって機密情報・プライバシー情報を抜き出そうとしたりすることが考えられます。AIエージェント間ガードレール技術は、当社のLLMガードレール技術(注6)で培った知見を活かし、悪意ある巧妙な質問を見破るとともに、事前にAIエージェントの挙動・回答を繰り返しシミュレーションすることで、機密情報・プライバシー情報を推測されない安全な情報に更新し、提供することで安全な通信を実現します。
図2:開発した技術の概要
実証について
当社は東京科学大学の開発したAIエージェント技術と当社のマルチAIエージェント連携技術を組み合わせ、東京科学大学とロート製薬様とともに、仮想のサプライチェーンで実証を行い、物流のルートやスケジュールなどを最適化することで、最大30%の運搬にかかるコスト削減の効果が期待できることを確認しました。今後、より実践的かつ大規模なレベルの検証として、2026年1月から2027年3月までの期間に、ロート製薬様のサプライチェーンを活用し実践を模した検証を行います。
今後について
今後、当社は、東京科学大学とロート製薬様とともに、製造業をはじめとする多様な業種への展開に向け、実証と技術強化を進めます。また、より幅広く複雑なサプライチェーンに対応するために技術開発を行い、2026年度中(当社の決算期は3月末日)を目標に、当社の社会課題を起点とする事業モデル「Uvance」のDynamic Supply Chain事業を通じて提供していきます。こちらの技術により、企業のサプライチェーン戦略に新たな視点をもたらし、レジリエンスの強化と持続可能な事業運営の実現に貢献します。
当社がリーダー企業として参画しているCOCNの推進テーマ活動の中でも、安心してデータを共有できるデータスペースの整備に加え、信頼性の高い AI エージェント連携を可能とするAI スペースを世界に先駆けて構築することの重要性が議論されています。当社はCOCNのAIスペースに関する活動に参画し、日本の産業力強化に向けた貢献を行います。
当社は、社会課題を起点とした事業モデル「Uvance」のもと、本実証で開発した技術を活用し、国境や業界を越えたAIエージェントの協働による安全なデータ連携を実現し、マルチベンダー環境で信頼性とガバナンスを確保しながら、レジリエントなサプライチェーンと持続的な産業成長を前進させます。
東京科学大学 総合研究院 デジタルツイン研究ユニット 兼 情報理工学院 数理・計算科学系 教授 藤澤克樹のコメント
東京科学大学ではサイバーフィジカルシステム(CPS)研究を重点的に推進しており、産業のバリューチェーン全体における効率性の向上に取り組んでいます。今後は、富士通が開発するAIエージェント技術と連携し、サプライチェーン全体の最適化を図ることで、産業の高度化や社会課題の解決に貢献してまいります。
URL https://global.fujitsu/ja-jp/pr/news/2025/12/01-02